静電気を実感する例と言えば、最もポピュラーなのが髪の毛に下敷きをこすりつける実験。だれでも子供の頃にやったことがあると思います。それから冬場にセーターを脱ぐときのパチパチ。
確かにすごく身近な現象ですが、静電気はどこで発生するの?どうやったら発生する?など、分っているようでなかなかわからないもの。
静電気発生のメカニズムについていろいろ調べてみたところ、そこには物質の表面での、出会いと別れの物語がありました。
どんな物語か、一緒に見ていきましょう!
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■ 目次
静電気がたまった状態とは
物質は全てプラスの電荷とマイナスの電荷を持っています。通常はその量が釣り合っていて、電気的に中性の状態で安定しています。このときの電位をアース(=大地)電位と言います。
この安定な状態に対して、外部から何らかの作用(外乱)が働き、プラスあるいはマイナスのいずれかの電荷が過剰な状態、すなわちアンバランスな状態になることがあります。
過剰な電荷が動かないで、溜まっている、この状態が、"動"ではない”静”電気がたまった状態です。
かつては平和な安定した状態だったのに、一触即発、触れればビリッと電撃が襲ってくる緊張感漂う状態になったという感じ。
いわゆる「導体」という物質は、いったん電荷がアンバランスな状態になっても、動く電気(つまり電流ですね)として移動させやすい性質があります。絶縁状態でない限りは(つまりアースされていれば)、すぐに電荷が移動して安定な中性の状態に復帰します。「導体」の典型的な物質が金属です。
これに対して、「不導体」と言われる物質は、電流を流しにくい性質であるため、いったん電荷の量がアンバランスになると、しばらく動かない電気(つまり静電気ですね)として溜まった状態になりやすいのです。ちなみに、「不導体」は「絶縁体」とも呼ばれます。
では、このような電荷のアンバランス状態を引き起こす「外乱」とは、一体どういったものでしょうか。
異なる物質が出会うと新たな秩序が生まれる
ココからやや難しい話で恐縮ですが、少しお付き合いください。異なる物質が出会って接触した場合、電気的な特性の違いから、電荷の移動が発生します。ランダムに移動するのではなくて、一定の方向性があります。
つまり、二つの物質の一方がマイナス電荷を放出し、もう一方の物質はマイナス電荷を引き寄せます。
この、電子を放出しやすい/引き寄せやすいという特性は、「仕事関数」というエネルギー量で表されます。
異なる物質の表面間では、仕事関数の小さい方(電子を放出しやすい方)から、仕事関数の大きい方(電子を引き寄せやすい方)へと電子が移動します。
この仕事関数の大小による物質の電荷移動の序列(帯電のしやすさ)を表したものを 帯電列 と言います。
帯電列とは
以下は帯電列の一例です。上側にいくほどが電子を放出しやすい方(プラスに帯電しやすい方)を表し、下側にいくほど電子を引き寄せやすい方(マイナスに帯電しやすい方)を表します。
下敷きと毛髪の場合
一般的に、下敷きは塩化ビニルで作られているものが多いです。塩化ビニルと毛髪を帯電列で比較すれば、塩化ビニルの方がこの一覧の下の方にありますから、下敷きがマイナスに帯電し、毛髪がプラス側に帯電することがわかります。
衣類の場合
衣類の静電気を抑えようと思ったら、この帯電列の位置が離れていない素材同士を組み合わせるとよいです。
たとえば、人の皮膚や毛髪と接触する肌着には、ナイロンだと静電気が抑えられます。そこに重ね着する素材として、ウールは良いのですが、アクリルだと静電気が発生しやすいことがわかります。
ウールとアクリルって風合いが似ていて、冬の重ね着アイテムとしてはどちらも暖かくて良い素材なんですけど、こと静電気に関しては大きな違いがあるのです。
髪の毛とブラシ(くし)の場合
冬場のブラッシング、プラスチック製のブラシなんか使うと静電気が発生してイヤですよね。髪が服にまとわりついたり、切れ毛をおこしたり・・・(家族の話。私は短髪なので実害ナシ)
静電気の起きにくいブラシとして、豚などの「動物の毛」や「木製」」が良いとされています。帯電列からもその性質をうかがうことができますね。
ナイロンも良さそうです。でも熱に弱いので、あまりドライヤーとの相性は良くないかも。
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なお、仕事関数には物質の表面の状態なんかも大きく影響することもあり、帯電列の順番はさほど厳密なものではありません。
出典によっては、近しい位置のものは上記と異なる序列で示される場合がありますし、測定の条件等によっては電荷の動く方向が逆転する場合もあります。
電荷の移動が及ぶのはどの範囲まで?
さて、物質が接触した時、電荷の移動はどの範囲まで起こるでしょうか。物質の内部までの全体的な話かと思えば、さにあらず。異なる物質の特性の違いが影響するのは接触している表面だけ。
電荷の移動という現象が起きる一方で、表面間では、プラス電荷とマイナス電荷の静電気は互いに引き付けあって、電気的に安定になろうとする現象も起きます。遠目に見れば、界面あたりの電荷はバランスがとれていて、電気的に安定な中性の状態をキープしているわけです。ですから、電荷が内部にどんどん進んで移動することはありません。
電子を失ったものがプラスに、電子を得たものがマイナスになります。と同時に界面ではプラスとマイナスがひかれあいます。
こうして、新たな秩序がうまれ、さっきまでとはまた別の安定の状態になるのです。
摩擦により静電気が増える
前章で、電気的特性が異なる物質が接触することで電荷が移動すると説明しました。でも、下敷きを頭に接触させただけじゃ、大して静電気は起きないですよね。。。
そうです、この実験には「こする(摩擦する)」という動作が必要です。この摩擦という動作が静電気とどうからむのでしょうか。
実は、「摩擦する」ということは、「接触する表面積を増やす」というはたらきをします。
モノの表面というのは、顕微鏡レベルで見れば実はデコボコしていて、触れただけでは、実際に接触するのは 微小な点 だけなんですね。
なので電荷の移動も限られるのですが、摩擦をすることでたくさんの点が接触することとなり、たくさんの電荷移動が発生することとなります。
しかし・・・まだ疑問が。
髪の毛と下敷きですが、こすっただけではあまり静電気の存在を実感しませんし、セーターもただ着ているだけでは別に「普通」ですよね・・・??
更にもうひと波乱ないと、
静電気キターーー
という状態にはなりません。
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剥離により帯電する
摩擦した後で、下敷きを頭から離していくとどうなるでしょうか。髪の毛がくっつきますよね。セーターでも、着用している時は別にどうということがなくても、セーターを脱ぐときにバッチバチになる と思います。これですよ、これ。
実は、いわゆる「静電気が発生する」のを実感する状態、つまり毛髪が下敷きにくっついたり、セーターがバチバチいう状態になるのは、接触していたモノが剥離すること(つまり別れ)によって起こります。
これはどういうことかと言いますと、物質の表面で電荷の移動があったものの、界面でプラスとマイナスが引き付けあって、遠目で見れば安定状態にあったものが、その仲を裂かれて、一方はプラス電荷が過剰(プラスに帯電した状態)になり、もう一方はマイナス電荷が過剰(マイナスに帯電した状態)になります。
剥離されていく過程で、プラスとマイナスが引っ張りあうので、下敷きに髪の毛がくっつくし、セーターの細かい毛が立ちます。まるで別れを惜しむように・・・
セーターを脱ぐ時にパチパチいうのは、離れる間際で細かい放電が起きているから。
静電気発生の陰には出会いと別れがあったのです。
歩くだけでも帯電する
カーペットなどの化繊の上を歩くだけでも静電気が溜まります。靴底と化繊という帯電列が離れた物質間で、摩擦と剥離が繰り返されるからです。
人体にも電荷がたまってくるので、カーペットの上を歩いた後でドアなどに触るとバチッとくるのです。
冬場に静電気問題が発生するのはなぜ?
冬季など、だいたい湿度60%~65%を切った乾燥状態になると、実生活上で静電気が気になる場面が多くなると言われています。実は夏でも冬でも静電気の原理自体は変わりありません。しかし、ある程度の湿度がある時期ですと、空気中に含まれる水分子を介して、溜まった電荷がすぐ放電されやすくなるのです。
湿度に対して、電荷の消失の度合いは対数で効いてきますので、影響は結構あります(例えて言うと、湿度が2倍、4倍ちがうと電荷の消失時間が1/10、1/100になるといった具合。正確な数字ではないですが)。
ですので、冬の乾燥は「静電気が発生する原因」というより、「静電気が逃げにくくなる原因」と言った方が原理的には正しい解釈です。
車のドアノブの静電気は?
冬場の乾燥した時期、クルマから降りてすぐにドアノブに触れるとバチッ!とくるの、結構イヤですよね。これも同じメカニズムで静電気が発生しています。
この件は関連記事の方で、対策もあわせて詳しく解説していますので、お悩みの方は是非参考になさってください。
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まとめ
これまで静電気が発生にまつわる、出会いと別離の物語を見てきました。最後にもう一度振り返ってみましょう。
- 性質の異なる物質が接触すると、その間の表面で電荷の移動が発生する。
- 摩擦が加わると、電荷の移動が多くなる。
- しかし接触したままなら表面でプラスとマイナスが引き寄せあい、電気的に安定を維持する。
- 剥離によって、プラスとマイナスが引き離され、電気的にアンバランスとなり、帯電する。
- 導体(金属等)でアースされていれば電荷はすぐに抜けるが、不導体だと電荷が静電気となって溜まる。
- 湿度があると空気中の水分を介して小さな放電が発生して静電気は放電しやすいが、低湿度だと帯電状態が長く続く。
異なる物質が出会うことで交流が生まれ、新たな秩序ができて平和になっていたのですが、それは一時的な平和。最終的に、その仲を引き裂かれることで、静電気が発生していたのでした。
なお、静電気発生の原理は、ここで取り上げたもの以外にも存在します。生活に密着したメカニズムとして、「摩擦帯電」および「剥離帯電」について取り上げました。
今回は以上です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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